20年以上前の話。
熱帯の国インドネシアに旅行し、現地のトロピカルフルーツにハマった。
旅は、同級生の親友と二人。
とにかく安く過ごせて出来るだけ庶民の暮らしに近い旅がしたい、と選んだ宿泊先は路地裏の安宿。
一泊あたり当時の日本円で200円くらい。
当然食事はついていないので、近くのカフェや食堂(warung=ワルン)を探した。
欧米系のバックパッカーがよく利用することもあってか、メニューにはたいてい西洋風の朝食があり、それにプラスして食後デザートにmix fruits salad(果物の盛り合わせ)を注文するのが習慣になった。
果物はパパイヤ、パイナップル、バナナの三種類。
パパイヤとパイナップルは一口大の角切りで、バナナは輪切り。
そしてその上に必ずといっていいほどjeruk nipis(ジェルック ニピス)というライムに似た薄緑色の小さな柑橘の櫛形切りが添えられていた。
最初は、何これ?と不思議に感じたが、日本の居酒屋メニューの、鶏の唐揚げに必ずついてくるレモンの櫛形切りのようなものか?と、試しに絞って回しかけた。
すると、この柑橘の絞り汁がフルーツに絡むことで、ただそのまま食べるのに比べて、格段に味が引き締まった。
単なる酸味に加えてこの柑橘の独特の香りが、ああ、南国に来たのだなあという実感をさらに盛り上げてくれた。
インドネシアから離れてかなり経ち、このフルーツ盛り合わせの味も忘れかけていた。
だが、数年前に思いがけずこの味に近いものを再現した。
それは、「柿にスダチ」。
柿という果物は、いかにも純日本の秋の風情を思わせる。
お寺の鐘が鳴る、というフレーズとともに俳句になっているくらい。
私は、幼い頃から実家の裏山になっている柿を食べて育った。
祖父母の代には、この柿の実を収穫して現金にしていたという。
甘柿の硬めのはまあま好きだが、熟して柔らかくなったのは苦手だった。干し柿も苦手だった。
そしてこの柿の甘さは、なんというか、ぼんやりとした野暮ったさを纏っているように感じていた。
嫌いじゃないんだけど、他の果物には感じない日本のふるさとを代表している、という感じがやたら重かった。
そしてスダチ。
これも一番イメージしやすいのは七輪で焼いた秋刀魚に、醤油と大根おろしに合わせて果汁をまわしかけて食べる、というもの。
いかにも日本の秋。である。
その柿に、何気なく実家で採れたスダチの絞り汁をかけてみた。
するとどうだろう。あのぼんやりした甘さが急に柑橘の酸味で引き締まり、口にした途端、かつてインドネシアのワルンで食べた朝食の「パパイヤにジェルックニピスの絞り汁をかけた」味を思い出したのだ。
柿にスダチ。純和風な果物の取り合わせなのに、なぜか味はトロピカル。
この秋、もし柿を食べるのに一工夫欲しいと思ったら、ぜひ試してみてほしい。
トロピカルを実感できないにしても、この味は意外にいけると思う。
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