旅先のバリ島で確信した、我が伴侶の底知れぬ強み

今から9年前の2012年、新婚旅行ででかけたインドネシア。
1週間ほどかけて、バリ島ウブド→ジャワ島ジョクジャカルタ→バリ島
という旅程。

行き先をインドネシアにしたのは、私の青春時代の思い出の地でもあり、30歳頃にバリ島に行ったのが最後、言葉も話せるのに10年近く足を運んでおらず、せっかくだから久しぶりに現地の空気に触れたいから、という理由だった。

旅の最後の夜、バリ島で夕食をとった。
確かジンバランという海沿いのエリアに、魚介系を豊富に用いたレストランが点在していた。
無類の魚介好きの夫(特にエビカニの甲殻類には目がない)が、ぜひシーフードを食したい!と切望して、最後のディナーはこのエリアに決定。

私自身、ここの国の文化や雰囲気にはそれなりに慣れているが、ジンバランにやってくるのは初めてで、しかも筋金入りの方向音痴であり土地勘が鈍いため、初めてやってきた土地でのお店探しはどうやったらいいかわからず戸惑った。
しかし、インドネシア自体が今回初めてだが、かつて南米はじめ世界で単身バックパッカー歴のある夫は、この時とてつもない底力を発揮した。

最初入ったお店は、バリで泊まっていたヴィラの紹介だったが、入店した時の雰囲気、水槽に生け捕りにされている魚介や水の鮮度がいまひとつだった。メニュー表の料金体系もなかなかの高価格。

「ここはやめよう。別を探しに行こう」彼はきっぱり断言した。
そして我々はひと気のない荒れた細い道を海沿いに歩いて行った。スマホのナビはおろか、地図やガイドブックも手にしていない状態で。
「ほんとにここの道行ったら別の店があるかなあ…?」と心細げな私を尻目に「大丈夫、この先に行けば絶対ある」と言い放ち、彼はズンズンと前を進む。


私は半信半疑だったが、こういう場面に遭遇すると相手の言うままになびくタチで、彼のいうままについて行った。そうするとしばらく歩いていくうちにやがてひらけたエリアが目の前に広がり、何軒かお店が見えてきた。いくつか回り、その中の一軒に決めた。そこは先程入った店に比べて建物の構えや内装は正直質素だったにもかかわらず、明らかに魚介の鮮度が格段に良く(生け捕りの水槽自体も綺麗に手入れされていた印象)、料理の値段もかなりリーズナブル。
ここは当たりっぽいね!?と二人で得意げに目を見合わせた。

通されたのは、屋外のビーチ席。夕日がどんどん沈んで真っ暗になり、キャンドルに灯されたテーブルが華やぐ。
なにが感激したかって、エビの料理だった。
それは長さ20センチちかくあるエビで、一本ずつ串刺しでソテーされているのだが、上からサンバル風味のソース(おそらくソテーした後のエビだしと共に煮詰めたものであると思われる)がたっぷりかけられていた。
「きっとこのサンバルは、トゥラシが入っているに違いない!半端ない旨味!!」と二人で歓喜した。そしてキャンドルに照らされた、インドネシアご当地のビンタンビール。

ウェイターさんがニッコリ微笑んで「どうぞ、食べる(Silahkan makan) 」とカタコトの日本語でおもてなしをしてくれたのが忘れられない。

ビンタンビール(bir bintang)の下部分。ビンタン(bintang)とは「星」の意味。日本語で「星ビール」だ。

そして、小さな楽隊?みたいなスタッフさんたちが、生演奏をしながら歌ってテーブル席の間をぐるぐる巡回していた。私たちが日本人のゲストであることを意識してか、日本の曲(五輪真弓の「恋人よ〜そばにいーてー」の歌など、一昔前にインドネシアで大人気だった日本ポップスのナンバーの数々)をたくさん披露してくれた。

インドネシア現地の生活経験があって、いくらインドネシア語が出来ても、インドネシアでありさえすればどんな場面でも対応できるとは限らないのだと、この時悟った。

私は語学留学の経験を生かしてインドネシア語の通訳や翻訳の仕事をしていたことがあるが、翻訳はまだしも通訳のほうは正直あまり合っていなかったように思う。その時その時の人と人とのやりとりや刻々と発生する様々な状況の変化に都度語学力でもって通訳者として対応していく、という能力に著しく欠けていたのだ。

対して、その土地の言葉も知らず生活経験がなくても、状況の変化を勘で察知し、それに応じた対処、判断、行動ができるという能力に長けているのは私の夫だ。

人の持つ強みは、生かすに適したフィールド、場面というものがありさえすれば、その強みを存分に発揮できて、しかもその人自身やその人の周りにも幸せが循環していくものなのだと思った。

そして私はあの時確かに「この人と一生添い遂げるしかない!」と心に誓ったのであった。

【追記】
※アイキャッチ画像のビンタンビールは、インドネシアに到着した夜にバリ島ウブドのヴィラで出されたものです。ジンバランで撮った写真ではありません。
※サンバル(sambal)=唐辛子をベースにした、インドネシアの旨味のあるピリ辛調味料。豆板醤のインドネシア版に近い。
※トゥラシ(terasi)=エビと塩分が原料の発酵調味料のペースト。単体ではかなり匂いがきついが、うまく隠し味にきかせるとえもいわれぬ美味となる。日本の「しょっつる」「くさや」にルーツが似ているかも?

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