フェイス・ノー・モア。マイク・パットン。我が20代の幕開けは彼らの音楽無くしては語れない。

フェイス・ノー・モア(Faith No More:略してFNM)。
1990年代、私が大学時代の頃ハマっていた音楽だ。
最近SNSの仲間内で話題になり、マイブームが再来している。

私は23歳でFNMの暑苦しいメロディーに包まれ異国に紛れ込んでいった

FNMとは、1990年代を中心に活躍した米国のオルタナティブ系ロックバンドだ。アルバムがリリースされる度にメンバーや曲調がめまぐるしく変遷している(詳細については専門的な解説にゆずる)。

個人的な見解では、FNMの魅力は次の3点に集約される。

①特定のジャンルに固まらず、曲調が多岐にわたる。
②曲の随所に〝悪魔的な重低音〟が散りばめられ独特の「旨味とコシ」がある。
③ボーカリストであるマイク・パットンの魅力(ルックス・声色と声域・パフォーマンス)

ここで強調したいのは、私の20代の幕開けは彼らの音楽無しでは語れないということだ。

20代初めに1年半ほどインドネシアに語学留学していた。渡航して間もなく、現地でKing for a Dayというアルバムのカセットテープを購入し、これまた現地で買った小さなラジカセで聴いていた。(当時のインドネシアでの音楽媒体の主流はまだカセットテープだったのだ。)

ジャケットが赤と白黒3色のみのペイント調でいかにも暑苦しいデザイン。
収録曲はどれも〝灼熱の情念むき出し〟のイメージで、常夏の国インドネシアの気候と見事にオーバーラップしている。 初の異国暮らしに挑む当時の私(23歳)の野心に満ち溢れた心象風景を、そっくりそのまま体現していた。

特に一曲めのGet out 。これは「はにうら若気の至りのテーマ」といっていい。

灼熱の太陽に照らされてバイクが沢山走るジャカルタ中心街の濁った空気。大学に通うためにぎゅうぎゅう詰めの市バスに乗り、バスが止まった路肩には砂埃がモウモウと立っていた。汗ばんだ身体に埃が付着した。


初めてホームステイした家庭で、毎日お気に入りのレバーペーストをクラッカーにつけて食べていたこと。ホストファミリーや他の学生と言葉がうまく通じずにストレスが溜まり、熱を出して部屋に引きこもってラジカセでこのアルバムをひたすら聴いていたこと。学生ビザ取得の手続きをするために、イミグレーションに通い詰めて長蛇の列に並び、拙い言葉で職員とやりとりしながら曖昧で煩雑なプロセスを踏み、度重なる手続きの遅延に辟易した日々。

このアルバム中の Get Out のみならず他の曲を聴いていると、留学中に見たインドネシアの風景と、当時自分が考えていたことや感じていたことがあざやかに蘇る。

暑っ苦しい曲をひたすら聴きながら、異国の雑多な暮らしにが紛れ込もうとがむしゃらになっていたあの頃。


マイク・パットンの底知れぬ魅力

FNMのメンバーで目を引くのはやはりボーカルのマイク・パットン(Mike Patton)。彼の伸びやかな声色と幅広い声域で、同一のナンバーの中でデスボイスからオペラ調まで自在に行ったり来たりする。音程の運びが、まるで朝日か夕日の空のグラデーションに満ちた色を眺めているようで、心地よい。

私は元々はハードロックやメタル的な系統の音楽は馴染まなかった。だが、マイク・パットンのボーカルスタイルに触れて以来いつしか「デスボイスあるところに快あり!」になってしまった。

当時90年代、音楽メディアはラジオやCD、公式のミュージックビデオに限られていた。なのでもっぱら公式映像を通じてのみ、彼のその端正な顔立ちとクールなパフォーマンスにうっとりとしていた。

しかし今の音楽メディアは、インターネットが主流だ。ネットで検索すると、動画サイトから公式の映像のみならず世界各地の様々なライブ映像もざくざくヒットする。ここで数十年ぶりに発見したライブ映像の中の彼は、公式ビデオで映し出された単なる歌の上手いイケメンには収まり切らず、ステージ上で’生々しい狂気’を放っていた。

公式プロモーションビデオでの彼の端正な顔立ちとクールな振る舞いは、こちらの動画で堪能できる。1997年、パットン29歳。

パットン氏の美しい顔ったらない! 袖からチラッとのぞく白いカッターシャツのカフスと手の振り方に、旨味とコシを感じてしまい、萌える・・・

いっぽうライブステージでは、全身を思うままに振り乱しながら縦横無尽に歌いまくる。その姿たるや、狂気と天才が紙一重。まるで何かが憑依しているかのようだ。

足を前後に開き低く腰を構え、低〜中腰のまま体幹を前後に激しく揺らしながらデスボイスを発する姿は、こちらの動画で堪能できる。1993年、パットン25歳。

上の映像より4歳若い。キャップ被ってすこしヤンチャ青年風。

口髭うっすらたくわえスーツ姿ってのも大人っぽくて痺れるしかない…。リズムに合わせてぴょんぴょん縦方向に跳ねる姿が秀逸。サッカーのベッカム選手の現役時代に面影が似てる。1997年、パットン29歳。

こちらもまたスーツ姿。縦にピョンピョン跳ねる姿がキレッキレ!

hender_makoさんという方のブログで、FNMとマイク・パットンについて詳細に述べられている。この方のこちらの記事(https://hendermako.exblog.jp/8974530/)で読んだが、彼は自らの美貌ゆえに女性ファンにキャーキャー騒がれるのが嫌で、わざと変顔をすることが多いらしい。その他、ライブ中にマイクを口の中に押し込んだり、極めて下ネタなパフォーマンスもやってのけたり。とにかく狂気じみているんだけど、デフォルトの彼があまりに美しいため、どんなに下品なことをしようが不思議とサマになるのだ。

今現在マイク・パットンは50歳をまわっている。
ネットで最近の動画や写真を見ると、どっしりとした体型になり髪をオールバックにして(生え際がかなり後退気味なのだが…)恰幅の良いオジサマという感じだ。サスペンダー付きの服を着て、胸にバラを一輪さしてワイン樽の横に佇みながらパイプを燻らすと、しっくりきそうな雰囲気になっている。良い歳の取り方をしているなあとしみじみ思う。

私は、マイク・パットンのミュージシャンとしての才能と美貌、なりふり構わないその狂気じみた姿勢に惚れる。学生時代や20代の頃は殆ど意識していなかった彼の魅力に、今この歳になって気づいてしまった。これまでの数々の記憶が重層的に積み上がってゆきFNMの音と私の自意識が融合し、ひとつの世界観を形成している。

私の青春に伴走してくれてありがとう。あっぱれMike Patton。そしてFaith No More よ永遠に。

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