40代も半ばを過ぎて、音楽はかつて20〜30代の頃に聴いていたお気に入りをリピートすることが多くなった。巷には新しい音楽も次々出てきているのだろうが、トレンドを押さえたりお気に入りを探し出すことが億劫で。
やっぱり歳を重ねると、新しいものに対する感受性が低くなるのかなあ。新しい音楽を見つけようとする貪欲さがなくなってきたのかなあ。この先新しい音楽を開拓しないまま、昔を振り返ることを繰り返してこのまま歳をとっていくのかなあ…。と一抹の虚しさを覚えた。
だがこの夏、Twitterでとあるフォロワーさんがシェアしていた動画がきっかけで、久々に新たに心の琴線に触れる音楽を見つけた。それは、米国の新世代オルタナティヴ・ロックバンド Breaking Benjamin(ブレイキングベンジャミン) だ。
私が基本的に好む音楽を思い浮かべると、そのほとんどが「長調」よりも「短調」寄りだ。物哀しく憂いのある曲調でなおかつ、ドラムやベースなどの重低音でミドルテンポを刻むグルーブ感に惹かれる。悲しくて切ないながらも暗さの中に薄明かりが差していて、そこに向かって淡々と前に進みゆくような、そんな曲調がしっくりくる。なので、アーティストが有名だろうが無名だろうが、好きな曲は昔でいうところの “B面の目立たない物憂げなナンバー” ばかりだった。
Breaking Benjamin も、まさにこれを体現していた。 初めて聴いたTwitter経由の曲に物哀しさが漂っていたので興味が湧き、動画サイトを辿って他の曲を幾つか聴いてみた。すると驚くことに、どのナンバーもことごとく「哀愁が漂ってる」系のメロディなのだ。じわりと衝撃が走った。 今までいろんな音楽を聴いてきたけど、ここまで一貫して “短調の旋律” に特化したミュージシャンに出会ったのは初めてだった。
彼らの音楽の流れのイメージを言葉にするとこんな感じだ。
① 繊細なボーカルを軸にして切ない旋律が徐々に立ち上がる
② 各パートが旨味とコシのあるエッジを効かせて奏でる
③ 突如かつ絶妙に差し挟まれるデスボイス風シャウト
④ 次第に盛り上がりつつグラデーションカラーの如く重層的に畳み掛けてくる
⑤ 荘厳なメロディーでかき鳴らしまくって収束に向かう
そして聴いている時の私の心象風景はこんな感じだ。
「心の奥底に封じ込めてきた ‘哀しみの粒’ が、彼らの音によって刺激され揺さぶられ、粒がブワッと開いて一気に哀しみの感情が解き放たれる」といった具合。待ってたんだよ、この時を!と言わんばかりに封印していた感情が堰をきって溢れ出してくる。まさにカタルシス。
ボーカリストのBenjamin Burnley 氏はもともと様々な病気や精神疾患を抱えており、それが曲にも色濃く反映されているらしい。優れたアーティストは往々にして心身を病んでいるとも言われるし、彼らの醸し出す「哀しさ」には、繊細さや破壊性それから透明感が同居しており、不思議な魅力となっている。
私は英語のヒアリング能力が低く、歌詞も単純に音として感覚的に聴いているため、歌っている内容自体はほとんど理解しておらず、ボーカルの声も純粋に一つの楽器の音として耳に入ってくる。なのに、確実に”熱”が伝わってくるのだ。
お気に入りは沢山あるが、なかでもこちら。エッジが効いて旨味がたっぷり詰まってる。2006年にリリースされたアルバム『Phobia』から。
同じアルバムの、上記のナンバーの次に収められているこちらも。この2曲の流れがまた絶妙。
さらに、デスボイス風のコーラスがそこかしこに散りばめられているのがこちら。アルバム名そのもの「夜明け前」のような闇と光のグラデーションさながら。2015年リリースのアルバム『Dark Before Dawn』より。
Breaking Benjamin は、1998年に結成されて以来20年以上経つ。これまでに4枚のアルバムをリリースし、その内2枚が全米で売り上げ100万枚以上という大ヒットを記録しており、欧米圏のロック界ではかなり有名だが、日本ではそこまでメジャーではないらしい。
私は洋楽の分野や事情について詳しくないので多くは語れない。
しかし、古来より「もののあはれ」や「侘び寂び」「世の儚さ」を愛でてきた文化の日本人のメンタリティと、哀愁を繊細に表現したロックバンドBreaking Benjamin は実は親和性が高いのではないか、と踏んでいる。
ここのところ、彼らの音はすっかりマイカー運転中のBGMとなっている。
そして、たった今を生きて新たな時を刻む私に伴走してくれている。
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